カメラのオートフォーカス方式には大きく分けて2種類の方式があります。
ひとつは、コントラスト方式、もうひとつは、位相差方式です。
位相差方式にも普通の位相差方式と、像面位相差方式の2種類があります。
ここでは、ミラーレス一眼に多く採用されている像面位相差方式AFについての説明をします。
一眼レフで最もよく使われている位相差方式とは異なり、
専用のオートフォーカス検出機構がない方式です。
その代わり、画像を入力するイメージセンサーの中に工夫がしてあり、
フォーカスずれを検出することができる方式です。
一眼レフと異なり、ライブビュー中でも常時オートフォーカスをかけることができますので、
ミラーレス方式にはうってつけです。一眼レフでも、AFの高速化を図って、
従来方式との併用で採用するようになってきております。
上でも述べましたように、この方式は専用のセンサー機構がありません。
コントラスト方式と同じで、カメラの画像を入力するセンサーのみで、実現できる方式です。
デジカメの撮像素子にAFセンサーを組み込んだものであり、
別の光学系が不要になるため、カメラがコンパクトに構成できる上、
位相差方式と同じく、
フォーカスのずれ方向(被写体に対してフォーカスが前にずれているか後にずれているか)
が検出できるため、高速なAF動作が可能になります。
原理的には位相差方式ですが、多少異なっている部分もあります。
まず、下の図を見て下さい。下の図は、一般的なデジカメの構成であり、
その中の一画素分を拡大して示したものです。最近の多くのデジカメは、
センサーの直前にマイクロレンズを搭載していますが、敢えてここでは省いてあります
(当初のセンサーのマイクロレンズは、
センサーとセンサーの間に光を感じない部分があったため、
光を感じない部分に光が当たらないよう、レンズで光を集めていただけで、
それほど本質的な意味はありませんでした)。
右側のセンサーの部分は物理的に各画素が分かれていますが、
被写体は連続的なものですから、分かれているわけではありません。
しかし、被写体のある領域がカメラの一画素に集まるのですから、
逆の見方をすれば、カメラの1画素に相当する被写体の一画素相当の領域は存在します。
それを左側に示しているのです。
Fig 1
被写体から出た光は、あらゆる方向に向かって進行するのですが、カメラの場合は、
レンズに入った光しか画像になりません。
そこで、上図ではレンズの一番端を通った光に着目しています。
例えば被写体の一番上端から出てレンズの一番上端に入った光は、
レンズで曲がってセンサーの画素の一番下端に達します(二重矢印)
(レンズを通ると画像は反転します)。また、被写体の一番下端から出て、
同じくレンズの一番上端に入った光は、
レンズで曲がってセンサーの画素の一番上端に達します(一重矢印)。
被写体から出た光の内、その他のレンズの上端を通る光は、
この二つの光線の間のどこかを通ることになります。
レンズの下端を通る光は薄い水色で示してあります。
もちろん、レンズは上端や下端以外のあらゆるところを光を通しますから、
上で述べた光線はほんの一部にしかすぎません。
しかし、あとあとの説明のためにあえてこの特殊な光線に注目してみます。
あえて付け加えておきますが、
被写体の一画素分の領域には明るい部分や暗い部分が含まれているのですが、
センサーに入ると明暗の分布は関係なくなってしまい、
ひとつの画素はひとつの信号しか出力しませんので、
被写体の明暗分布は関係なくなってしまいます。
平均の明るさがセンサーの出力になるのです。同様にレンズのどこを通った光であろうが、
センサーの出力は全ての光を足し算した結果ですので、
レンズのどこを取った光であるかということも関係なくなってしまいます。
上でもご説明しましたが、
一般的にマイクロレンズはセンサーの表面に各画素毎に形成されており、
光をなるべく有効にセンサーに導くのが目的でした。
しかし、像面位相差の場合、もうひとつ重要な役割があります。先ずは、下の図を見てください。
Fig 2
Fig 1と違い、センサーの前にマイクロレンズが配置されています。
このマイクロレンズを入れることで、
Fig 1と同じレンズの端を通った光がセンサー上で一点に集光するようにします。
カメラレンズの位置の像が、
マイクロレンズを通ることによってセンサー上に像を結ぶようにするということです。
この絵のようにカメラレンズの上端を通った光は、
マイクロレンズを通って、センサーの画素の下端に集まります。
同様に、カメラレンズの下端を通った光は、センサーの画素の上端に達します。
図示はしてありませんが、カメラレンズの中心を通った光はセンサーの中央に集まります。
これはどういうことを意味しているのでしょう。
前回の説明を思い出して欲しいのですが、マイクロレンズが無かった時は、
センサー上の光の分布は被写体の画素相当部分の明るさの分布に相当していました。
しかし、今回の場合は、被写体の画素相当の明るさの分布という情報は無くなってしまい、
代わりに、
カメラレンズの通過場所毎の光の量を反映しているということがわかります。
マイクロレンズ一枚を通すことによってセンサー上の光の分布の意味が全く違ってしまうのです。
これからが、実際の像面位相差方式についての内容です。
下の図をご覧ください。
被写体とカメラレンズとマイクロレンズとセンサーの関係は前回と同じです。
異なるのは、センサーの前に小さなスリットが置かれていることです。
今までの話で、
マイクロレンズはセンサー上の位置とレンズの光の通過位置とを対応させる役割であることを示しました。
そこで、センサーの前にスリットを置くことで、
センサーに入ってくる光のレンズ通過位置を限定してしまうのです。
下の図では、スリットはセンサーの中心から少し上のところに作ってありますので、
対応するレンズの位置はレンズの下半分のほぼ中央当たりに相当します。
Fig 3の上側は、丁度フォーカスが合っている状態とします。
Fig 3
Fig 3の下側の図は、カメラのレンズが矢印方向にA点からB点まで動いた場合の図です。
レンズがセンサーから離れる方向に動いたのですから、
本来は被写体がb点にあればフォーカスが合うのですが、
現実には被写体はa点のままですから、フォーカスは合っていません。
センサーには青い線と赤い線に挟まれた部分の光が入りますので、Fig 3の下側の図に示したように、
本来の被写体からの光ではなく、被写体より少し上の像がセンサーに入ることになるのです。
つまり、マイクロレンズとスリットを使うことによって、
フォーカスが合ってない状態では、ずれた位置の像がセンサ上に投影されることになるのです。
実際の例では、センサーのスリットはもう一つ別のものが用意されます。
別のものというのは、スリット位置を上図の中心軸と反対側に設定したものです。
マイクロレンズの中心より下側にスリットを配置します。
上側に配置した場合と逆になりますので、カメラレンズがB点に移動した際には、
被写体の少し下側の像の光がセンサーに入ることになります。
つまり、上スリットの場合とは逆の動きをすることになるのです。
尚、上図はわかりやすいように強調して描かれています。
実際にはマイクロレンズはカメラレンズに較べて非常に小さなものですから、
光の広がり方も非常に小さなものです。
これまでの説明で、像面位相差の基本的な原理をお示ししました。
ここからはは、この基本原理を実際のカメラでどう使っているかという話です。
上では、ひとつのセンサーでの働きを説明しました。
実際には、上で少し触れましたが、2つのセンサーをペアにしたものを使います。
スリットの位置が画素の中心に対して対称な位置にある2つの画素をペアにします。
一例を下図に示します。
Fig 4
上図は、撮影用のセンサーの中にAF用の画素が入っていることを示しています。
カメラのセンサーのほんの一部を拡大したものです。
色が付いているのはカラーフィルターの色を示しています。
スリットの位置が左右対称になっている二つの画素を近接させます。
遠く離れてしまうと、像そのものが異なった像になってしまいますので、
像のズレを検出することが出来なくなってしまいます。
そして、このペアの画素を画像センサーの必要な部分にちりばめているのです。
フォーカスを検出する画素の数は各社各様だと思いますが、おそらく数万は下らないと思います。
この画素を一定間隔で例えば横に配置し、それを一列に並べると、
一次元センサーを並べたことと同じことが実現できます。(下図)
これも、画像センサーの一部のみを示していますが、
ペアのセンサーをひとつの点で示しています。
それが、一定間隔で複数並んでおり、一次元センサーのような構成になっているのです。
横方向のみではなく、縦方向のフォーカスも検出する必要がありますので、
縦の並び(図では赤の点)も用意されます。このようなものが、
画像センサーのあちこちに散らばっているわけです。
Fig 5
左右対称のセンサーを各々別々に取り出し、
二つの一次元センサーもどきの画像を比較し、
そのずれからフォーカスのズレ量を計算するのです。
このあたりの考え方は、いままでの位相差方式と同じ考えです。
それを画像を読取るセンサーの中で一緒に実現しているのです。
フォーカス用のセンサーから得られた信号をグラフ上に示したのが下の図です。
2種類のスリットを通して得られた信号は焦点のずれに応じて間隔(位相)がずれて出力されます。
この間隔が特定の値になるようにレンズを制御すれば、オートフォーカスが実現できます。
下の図は、信号を取りだしたところを示しております。
片側のスリットの信号の複数の画素をならべたものが青、
対称配置のスリットをもつセンサーの出力を並べたものが赤です。
横方向にズレが生じています。このずれがある値になるように、
フォーカス用のレンズを制御すればよいのです。
Fig 6
最近では、カメラの撮像素子の各画素を2分割して、
それぞれの出力を別々に取りだす方式も出てきています。この場合は、センサー全面で
好きなところをAF用のセンサーに設定でき、AF点も非常に多く設定できます。また、
分割した出力を足し合わせれば通常の画像センサーになるわけですから、
上で説明したようなスリット付の画素をわざわざ用意する必要もなくなるわけです。
像面位相差方式の説明は、以上とさせていただきます。
少し、難しい話になってしまいましたが、なんとなく概要がつかめていただければと思います。
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